クロロフィラ クチーナ エ ディスティラティ

緑と創造性とおもてなしに包まれたローマのレストランバー
May 18, 2025
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心のこもったおもてなし

ローマ中心部、カンポ・デ・フィオーリのすぐ近く。にぎやかな観光エリアからほんの少し脇道に入ったところに、知る人ぞ知るレストランバー「クロロフィラ」があります。

一見すると小さな入口ですが、中に足を踏み入れると、その奥には広々とした空間が広がり、まるで秘密の庭に迷い込んだよう気分になります。

まず目に飛び込んでくるのは、壁一面のグリーンアートと長いバーカウンター。本物の植物とアート作品が混ざり合う空間は、自然と都会の洗練が絶妙に同居しています。

店内は可愛らしくナチュラルな雰囲気に包まれていますが、提供される料理とドリンクはどれも本格派。そして何より印象に残るのは、スタッフのあたたかいおもてなしです。

親しみやすいオーナーのフランチェスコ・コスタンティーニ、才能あふれるシェフのジョルジオ・タンドイア、カリスマ的なバーテンダーのニコラス・カリアがいます。彼らの存在が、クロロフィラを「ただのおしゃれな店」ではなく「また帰ってきたくなる場所」にしています。

フランチェスコ・コスタンティーニ / ジョルジオ・タンドイア

スタイルで勝負するのではなく心で届ける

ニコラスがバーに立つと自然と人が集まり、そこには不思議と楽しい空気が流れはじめます。

彼はひとりひとりに丁寧に声をかけ、ゲストの好みに合わせたカクテルを即興で作り出していく。その手つきは華麗で、まるでパフォーマンスのよう。けれど驚くのは、彼の作るドリンクがどれも見た目だけでなく「味までピタリ」とはまること。彼のカクテルを目当てに来る人がいるのも納得です。

「レストランに、こんな本格的なバーがあるなんて」と驚く人も多いはず。食事前に軽く一杯楽しむのもよし、混雑時にはウェイティングバーとしても機能します。

ニコラス・カリア
ニコラス・カリア

技術よりも感覚を大切に

ニコラスは、4つ星や5つ星の高級ホテルで長年働いてきた経験を持ち、それが随所ににじみ出ています。細部まで行き届いた気配りや、ゲストの空気を自然とやわらげる会話術。彼がいるだけで、場が和んでいくのを感じます。

彼にカクテルをお願いすると、メニューにはない一杯をその場で作ってくれました。味は驚くほど私好み。きっと、会話の端々から好みを読み取っていたのでしょう。

「ドリンクは、人と人の間をつなぐもの。注文にないニュアンスを感じ取って、会話の中から好みを読み取ります。」

そんな彼の姿勢がよく表れているのが、「ドリンクについて説明する際に、技術的な話でゲストに負担をかけすぎないようにしている」と言う点。その代わり、彼はシンプルに感じられるものを作ることに重点を置いています。

「こだわりの押し売り」はせず、ただ自然にゲストがリラックスできる空間を作る。それが彼のスタイルです。

ニコラス・カリア

芸術的な味わいのカクテルメニュー

クロロフィラのカクテルメニューは自然への鮮やかなオマージュで、各ドリンクは色、季節性、コントラストを表現しています。自然界の優しい色合いにインスパイアされたカクテルは、予想外のフレーバーを完璧なハーモニーで融合させ、グラスを1つ1つ飲めるような芸術作品へと高めています。

傑出した作品のいくつかを垣間見てみましょう。

Azalea(アザレア)
テキーラ、メスカル、バジル、ピンクグレープフルーツ、ライム、トニック

Wallflower(ウォルフラワー)
テキーラ、セレクト、焦がしアプリコット、グリーンスイートペッパー、アンゴスチュラ

Bluebell(ブルーベル)
3年熟成ラム、オレンジ、スピルリナ、タイム、ドライベルモット、ライム、キュウリビターズ

Anemone(アネモネ)
バーボン、セレクト、ストロベリー、乳酸発酵生姜、クローブ、モンテネグロ

Snowdrop(スノードロップ)
ウォッカ、青リンゴ、発酵ケッパー、根菜、苦いタイム、セロリ

Zinnia(ジニア)

ウォッカ、ピスコ、ブルーベリー&ラズベリーシュラブ、ローズマリー、モンテネグロ

このメニューでは、低温調理やクライオインフュージョンなどの最新技術を使い、ひとつひとつの素材の風味を丁寧に引き出しています。

「この中で、何かおすすめのドリンクと言われたら、ローストアプリコットをベースにしたウォルフラワーです。極上のエスカラドーレステキーラに夏野菜のフリジテッロ、そしてヴェネツィアの歴史的なアペリティーボビターであるセレクトをミックスしています。フレッシュで、ほろ苦く、そして魅惑的な味わいです。」

とニコラスは言います。

クロロフィラでは、驚きに満ちたカクテルが次々に生まれています。最近特に人気があるのは、ローストアプリコットやフリジテッロ(イタリア産の甘唐辛子)、ブルーチーズといった、意外な素材を使った創作カクテルです。

ゲストは、「えっ、こんなものが入ってるの?」と驚きながら、思わず隣の人と話し始めてしまうようです。こんなふうに一杯のカクテルが会話のきっかけになり、空間を柔らかくほぐしていく。これもまた、クロロフィラならではの魅力です。

インスピレーションの源は素材とストーリー

バーテンダーのニコラスはこう語ります。

「ドリンクを作るうえで大切にしているのは、素材の背景にある“物語”をゲストと共有すること。そして、そこに技術、情熱、そして少しの“人間味”を加えることです。」

創作のヒントは、シェフや同僚のバーテンダーから得ることもあれば、ローマ周辺の食文化や香り、歴史にインスピレーションを受けることも多いそう。

素材の魅力を引き立て、季節感を意識し、ドリンクが語るストーリーを感じてもらうこと。彼のカクテルは、まるで一皿のアート作品のようです。

最近行われたアガベをテーマにしたイベントで、ニコラス氏はライシージャ(メキシコの希少なアガベスピリッツ)、ブルーチーズ、青リンゴ、ライムを組み合わせたカクテルを披露しました。これは銅抽出技術を使用して各要素のエッセンスを際立たせた、大胆でありながら美しくバランスのとれた創作です。

ニコラス・カリア
フランチェスコ・コスタンティーニ / ニコラス・カリア

カクテルは「記憶を呼び覚ます体験」

ニコラスとクロロフィラのチームが提供しようとしているのは、単なる「おいしい飲み物」ではありません。

「私たちが届けたいのは、カクテルを通じて“記憶を呼び起こす体験”。
香りや味が、いつかの風景や感情をそっと思い出させてくれるような一杯です。」

当初、ゲストの中にはアイデアの大胆さに不意を突かれた人もいました。しかし、少しずつ信頼関係が築かれていくにつれ、「いつもの」ではなく「今日だけの一杯」を求めるリピーターが増えていきました。

世界とつながる、イタリア発バーカルチャーの未来

イタリアのバーカルチャーにも、いま大きな変化の波が押し寄せているとニコラスは言います。

「サステナビリティに関する議論はますます活発化しており、ゲストシフトによって、数年前にはほとんど不可能と思われていた、より本格的で楽しい方法でバーの世界に人々を誘うムーブメントが生まれています。」

彼はこの進化を、真のイタリアの巨匠シモーネ・シャンブローネ(ブルガリ・ホテル)、シーンの革命家であるマルコ・ロッシ(オフィチーナ・ミラノ)、そして未来を形作り続けているリカルド・ロッシ(フレーニ・エ・フリツィオーニ)、パトリック・ピストレシ(ドリンク・コング)、マティア・カペッツォーリ(ホテル・ド・ルッシー)などのイタリアのミクソロジーの先駆者たちのおかげだと考えています。

今後は、廃棄物の削減、クラフトスピリッツの活用、そして技術と情熱を武器に、バーの世界はさらに進化していくはずです。

ニコラス・カリア

驚きと洗練が交差するフードメニュー

クロロフィラでの体験はバーだけではありません。芸術性と大胆さを兼ね備えたキッチンでは、洗練されているだけでなく意外なメニューも楽しめます。伝統に敬意を払いつつ、大胆不敵に考え直すことで、どの料理も、イタリア料理や国際料理について知っていると思っていたことを再考するきっかけになります。

フランチェスコ・コスタンティーニ
クランベリーのようなトマトの前菜

餃子の概念が変わる「ダンプリング アッラ カチャトーレ」
この見事な解釈は、ジューシーなチキンにカチャトーレ風の泡を染み込ませ、繊細なローズマリーのチュイルをトッピングしたものです。 一口食べた瞬間、その香りと旨味が口いっぱいに広がり、まさに「衝撃のおいしさ」。

ダンプリング アッラ カチャトーレ

定番の再構築「黒トリュフ入りカルボナーラ」

カルボナーラの概念を覆すユニークなプレゼンテーション。 卵黄とペコリーノの泡を詰めたボットーニに、ベーコンパウダーと黒トリュフが香る贅沢な仕上げ。クラシックな一皿が、見た目も味わいも洗練された姿で再登場します。

黒トリュフ入りカルボナーラ

和とイタリアの融合「イカラーメン」

一見すると和風うどんのように見えるこの一皿。実はその正体は、新鮮なイカを“麺”のように仕立てた逸品。出汁の効いたソースに絡むその食感と香りは、まさにフェットチーネのような奥行きを持ち、ネギとキノコが絶妙なアクセントを添えます。

イカラーメン

ドリンクとのペアリングも楽しみのひとつ

料理の魅力をさらに引き立ててくれるのが、ペアリングの妙。
クロロフィラでは、ワインやカクテルと料理を組み合わせたコースも楽しめます。

たとえば、イカラーメンに合わせて提供されるのは、ライシージャ(El Disfrute)、テキーラ・エスカラドーレ(干し草入り)、青リンゴ、キャッパーズ・ブライン、根菜、キュウリのビターを組み合わせた、旨味と酸味が織りなすカクテルです。
爽やかな酸味とほのかな苦味が、イカの繊細な海の風味を完璧に引き立てます。

ニコラス・カリア

デザートと締めの一杯

クロロフィラミス
自家製ティラミスに、サクサクのココアクランブルを加えた絶品デザート。「これを食べるためだけに来る価値がある」と言っても過言ではありません。

クロロフィラミス
ジョルジオ・タンドイア

塩キャラメルチーズケーキ
コクがありながら甘さと風味のバランスが取れた、このチーズケーキには、ハニークッキーとローストしたカカオニブがトッピングされています。一口食べるたびに深みと喜びが完璧に融合し、思わず笑みがこぼれます。

そんなデザートにぴったりなカクテルはこちら:エドガージン、セレクト、ローストアプリコット、アンゴスチュラビター、ダークチョコレート&コーヒービター

アロマティックでほろ苦く、奥深いハーモニーで豊かな余韻を残します。

キャラメルチーズケーキ
カクテル / キャラメルチーズケーキ

心に残るすべてが調和した体験

メニューのすべてが美しく調和し、それぞれの一皿と一杯が完璧にマッチしています。イタリアの伝統を尊重しつつも、そこに独自のアレンジを加えた、洗練されたモダンガストロノミー。

創造性に満ち、思わず驚いてしまう料理の数々は、コースでも楽しめるため、特別な日にもぴったり。グループでの食事も、カップルでのディナーも、どちらも温かく包み込んでくれます。

特筆すべきは、居心地の良さと、きめ細やかなサービス。スタッフはフレンドリーで気さく、それでいてプロフェッショナルな空気感を纏い、心地よい時間を演出してくれます。

「僕らは、グラスやプレートに“エゴ”を詰めたくない。ただ、お客様の時間が少しでも特別なものになるように、それだけを考えています。」

店を支える想いは、技術や派手な演出ではなく、「ゲストが笑顔で帰ること」。その真摯な姿勢こそが、クロロフィラの一番の魅力なのかもしれません。

ジョルジオ・タンドイア
ラムとミスティカザ
フランチェスコ・コスタンティーニ
フィッシャーマンズ・フレグラ
ジョルジオ・タンドイア

クロロフィラ
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