ジェラートのニュートラルゾーン

ジュフレ・フォルノ&ジェラート by アレッサンドロ・ジュフレ
August 1, 2025
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20種類以上のジェラートやグラニータと焼きたてのブリオッシュや伝統的な焼き菓を楽しめるジュフレ・フォルノ&ジェラート (Giuffrè Forno & Gelato) は、2018年にトラステヴェレ地区にオープンし、今ではコッリ・ポルトゥエンシ、マルコーニとあわせて、ローマ市内に3店舗を展開しています。

こちらのジェラートは、味わいの組み合わせも魅力です。

トラステヴェリーノ(Trasteverino)は、自家製のビスコッティに塩とジャンドゥイをあわせた香ばしいクリーム。

ポルタ・ポルテーゼ(Porta Portese)は、ヘーゼルナッツとチョコレートアーモンドがまろやかに混ざり合った、コクのある味わい。

リコッタ・マヌエ(Ricotta Manuè)は、羊のミルクで作ったリコッタチーズに、はちみつ、コーヒー粉、レモンピールが加わった、やさしいけれど奥行きのあるフレーバーです。

季節限定のフレーバーには、ピエモンテ産のアプリコット「トンダ・アルビコッカ」を使ったものもあり、どの味にも素材への強いこだわりが感じられます。

焼き菓子なども充実しています。ローマ名物のクッキー「サンピエトリーニ」や、ババ、ミニサイズのケーキ、ワッフル、クレープなど、どれも手が伸びそうなものばかり。

スペシャルティコーヒーといっしょに、朝ごはんや軽めのランチ、午後のおやつまで、どの時間帯でも楽しめるお店です。

注文ごとに仕上げる出来立てジェラート:エスプレッソ製法

ジュフレでは、ジェラートを注文してから目の前で仕上げる「エスプレッソ製法」を取り入れています。

使われているのは、カラピーナという、ふた付きの丸いステンレス製の容器です。この容器は、ジェラートの温度や質感をしっかり保つことができるため、本格的なジェラート店ではよく使われています。

ジュフレでは、このカラピーナの中でジェラートの最終仕上げを行います。
この工程は、マンテカチーニと呼ばれ、冷やしながら混ぜて空気を入れることで、ジェラートがふんわりなめらかになります。

通常この作業は専用の機械の中であらかじめ済ませておきますが、ジュフレではそれを注文が入ってから行います。食べる直前にジェラートが完成するので、一番おいしいタイミングで味わえるのです。


この、できたてをすぐ出すスタイルが、エスプレッソコーヒーと似ていることから「エスプレッソ製法」と呼ばれています。この製法は温度や混ぜ方を素材に合わせて細かく調整できるため、チョコレート、果物、ナッツなど、それぞれの特徴をしっかり引き出すことができます。

アレッサンドロ・ジュフレ Alessandro Giuffrè

ジュフレ・フォルノ&ジェラートの創業者、アレッサンドロ・ジュフレは、シチリアがルーツの三代続くお菓子職人の家系で、伝統を大切にしながらも、常に新しいことにチャレンジしています。

20代の頃、アドリア海沿いの町チェゼナティコで、家族と共にピアディーナ店やクレープ&ヨーグルト専門店を立ち上げた彼は、その後ラツィオに戻り、ブラッチャーノ湖畔で飲食の現場を重ねながら、製菓とジェラートの技術を本格的に磨いていきました。

2013年には名門ジェラートブランドのフランチャイズにも参画し、現場での経験と感性をさらに深めました。そして2018年に自身のブランドであるジュフレ・フォルノ&ジェラートを立ち上げます。

ピスタチオやナッツ、新鮮なフルーツやチョコレートを小規模な生産者から仕入れるなど、素材への徹底したこだわりがあります。

彼のビジョンは、「ジェラートを通して、人や地域、文化がつながっていくこと」。サステナブルな素材選びから、菓子づくり、スペシャルティコーヒーに至るまで、すべての要素がそこに編み込まれています。

さらに、「ジェラートの中立地帯(Zona Neutra del Gelato)」という取り組みにも力を入れています。これは、ジェラートを通じて話し合ったり学んだりする場で、若い職人たちといっしょに、これからのジェラート文化について考える活動です。

アレッサンドロ・ジュフレ

ザバイオーネをテーマに3人の職人が語る

先日開かれた「ジェラートの中立地帯」のイベントでは、イタリアの3つの地域からジェラート職人が集まりました。

テーマは「ザバイオーネ」。それぞれの土地の材料と、それをどうジェラートに生かすかについて、3人の職人が自分の考えや味の作り方を紹介しました。

エリカ・クアットリーニ / ルイジ・ブオナンセーニャ/ アレッサンドロ・ジュフレ

マルケ州から参加したエリカ・クアットリーニ氏は、「ヴィーノ・コット」という煮詰めたワインを使ったザバイオーネを紹介しました。ヴィーノ・コットはローロ・ピチェーノという町で昔から作られていて、どこか懐かしく、深みとコクが感じられます。

バジリカータ州から来たルイジ・ブオナンセーニャ氏は、有名なワイン生産者エレナ・フッチのヴェルモットを使い、大人っぽく落ち着いたザバイオーネを作りました。香りが印象的で、飲み物としての特徴がそのままジェラートになっているような仕上がりです。味のバランスや香りの広がりがよく考えられていて、エレガントな雰囲気があります。

そしてホストでもあるアレッサンドロは、シンプルだけど香りのあるザバイオーネを発表しました。材料や工程を必要最小限に抑え、削ぎ落とした中にしっかりとした香りを引き出しています。やさしくて洗練された味わいです。

ヴィーノ・コット

この日はザバイオーネだけでなく、他にもいくつかのユニークなフレーバーが紹介されました。どれも実験的でありながら、味がしっかりしていて、ジェラートという枠を超えた、素材の表現としての面白さがあります。

ルカーノ地方の「ノービレ牛乳」を使ったミルクジェラートは、牛乳の味そのものが素直に感じられる一品。スティリアーノ産のピスタチオを使ったウォーターベースのジェラートは、ミルクを使わないことでナッツの風味がよりクリアに出ています。

エレナ・フッチのヴェルモット / ノービレ牛乳


ミントの蒸留水と砂糖漬けの葉を加えたマスカルポーネのジェラートや、セージを素揚げにして入れたバターのジェラート、オレガノの香りをつけたドゥルセ・デ・レチェのジェラートなど、どれも新しい組み合わせで、それぞれの素材を大切にしているのが伝わってきます。

セージを素揚げにして入れたバターのジェラート

イベントの中でも特に注目を集めたのが、ヨーグルトのジェラートです。このジェラートは、一般的な方法とは違い、ヨーグルトを崩したり混ぜたりせず、自然な凝固のまま使っています。乳酸菌のやさしさが残るナチュラルな風味です。

このヨーグルトは、ローマ近郊サクロファーノにあるラクティス – ラルキミスタ デル ラッテ(Lactis – L’Alchimista del Latte) という工房の乳職人アンドレア・チッロ (Andrea Cillo) によるものです。

原料には生乳を使い、増粘剤や加工助剤などの添加物は一切加えていません。時間をかけて自然発酵させる、持続可能でとても透明性の高い作り方が特徴です

アンドレア・チッロのヨーグルトt

素材をどう扱うか、どう伝えるか。このイベントでは、ジェラートという食べものを通して、それぞれの土地や人の考え方、食文化への向き合い方が丁寧に語られました。どの味にも、つくり手の思いがしっかり込められていたのが印象的です。

エリカ・クアットリーニ

エリカ・クアットリーニ Erika Quattrini

イタリア中部のマルケ州出身のエリカ・クアットリーニ氏は、伝統を大切にしながら、新しい発想も取り入れたジェラート職人です。

現在は家族と一緒に「ジェラテリア・クアットリーニ」というお店を運営しています。このお店は、1984年に彼女のおじいさんが始めたもので、長い歴史があります。

彼女は、もともと経営コンサルタントになることを目指して大学を卒業しましたが、やがてジェラートの世界に魅力を感じ、本格的にその道を歩み始めました。イタリアの有名な学校「Cast Alimenti」や「Hangar 78」で技術を学び、職人としての力をつけていきます。

その結果、彼女のお店は2024年と2025年に、イタリアのグルメガイド「ガンベロ・ロッソ」から最高評価である「トレ・コーニ(三つのコーン)」を2年連続で受賞しました。さらに2022年には「注目の若手職人」や「シェルベット・イノベーション特別賞」といった賞も受けており、ジェラート界の中で確固たる存在感を放っています。

エリカさんのジェラート作りの中心にあるのは、地元の小さな生産者とのつながりです。たとえば「Cau & Spada」のチーズや、「Giorgio Poeta」の蜂蜜など、地元のこだわりある素材を丁寧に選んで使っています。食材選びに妥協はなく、どれも信頼できるものばかりです。

他にも、赤ビーツで色づけしたパンナコッタや、ホウレンソウで緑を出したミント、紫キャベツで色をつけたホワイトチョコレートなど、素材が本来持っている色や香りを大切にしたアイデアがとてもユニークです。特に、自家製の蒸留水(イタリア語で“idrolati”)を使って植物の香りを引き出す方法は、彼女ならではの繊細なアプローチと言えます。

エリカさんのジェラートにはちょっとしたユーモアもあります。たとえば、「キャベツとチョコ!?(Cavoli che cioccolato!)」という遊び心のあるネーミングのフレーバーや、白い見た目なのにオレンジの味がするソルベなど、見た目と味のギャップで食べる人を驚かせてくれます。

モンティ・シビリーニ地方のペコリーノチーズとカボチャの種のクリームを使った、季節限定の特別なジェラートも人気です。

すべてのフレーバーはグルテンフリーで、半分以上は乳製品を使っていません。どんな人でも安心して楽しめるようにという、彼女の思いやりです。これからは、製造と販売のどちらにも力を入れられるように、ラボとしての機能を高め、地域の人たちとももっとつながれるようなお店作りを目指しているそうです。

ルイージ・ブオナンセーニャ

ルイージ・ブオナンセーニャ Luigi Buonansegna

ルイージ・ブオナンセーニャ氏は、イタリア南部バジリカータ州の小さな町ピニョーラで、他にはないジェラートを作り続けています。

もともとはフィレンツェの大学で法律を学び、裁判所で働いていたという少し珍しい経歴の持ち主ですが、地元のジェラート職人との出会いをきっかけに、少しずつ食の世界に惹かれていったそうです。

その後、家族が営んでいたカフェを土台にして独立し、2020年に「Officine del Gusto(オッフィチーネ・デル・グスト)」というお店をピニョーラにオープンしました。それ以来、地元の食文化や素材をジェラートとして表現することに、情熱を注いでいます。

彼のジェラート作りは、何よりも地元の素材にこだわっているのが特徴です。スティリアーノ産のピスタチオ、カフォンナという品種のアプリコット、ピニョーラやカンドンガ種のいちご、バジリカータ産のノービレ牛乳やサフランなど、その土地ならではの食材を中心に使っています。

工業的なベースや添加物には頼らず、安定剤もできるだけ自然由来のものを使うなど、素材の力を活かした丁寧な作り方を大切にしています。

フレーバーの組み合わせもとてもユニークで、ライムとバジル、ホワイトチョコレートとゴマ、トラーパニ産の岩塩をきかせた塩キャラメルなど、伝統的な味と新しいアイデアがうまく混ざり合っています。

なかでも「Oro Lucano(オーロ・ルカーノ)」は、サフラン風味のホワイトチョコにロトンデッラ産のアプリコットとピスタチオを合わせたもので、2020年のシャーベット・フェスティバルでは「プロコピオ・クト」金賞を受賞するなど、高い評価を受けました。

その実力は、イタリアのグルメガイド「ガンベロ・ロッソ」でもしっかりと認められています。2021年には「イタリアで最高のチョコレート味ジェラート」に選ばれ、その後も2021年から2025年まで、4年連続で最高評価の「トレ・コーニ(三つのコーン)」を獲得しました。

これは、バジリカータ出身のジェラート職人としては初めてのことだそうで、彼のこだわりと努力の成果が表れています。

ルイージさんには、ジェラート作りを通じて目指しているはっきりとした思いがあります。それは、ジェラートという形を通して、バジリカータの魅力や文化を人々に伝えていくこと。彼の作るひとつひとつのジェラートには、その土地のストーリーが込められているのです。

Giuffrè Forno & Gelato
Giuffrè Forno & Gelato
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