Amaro16.20

近年、アマーロの世界は確実に広がりを見せている。
クラフト志向の高まりとともに新規参入も増え、バックバーに並ぶ選択肢はかつてないほど豊富になった。
一方で、「どこかで飲んだことのある味が増えている」と感じているバーテンダーも少なくないのではないだろうか。
似たようなボタニカル、強めに設計された甘味、そして飲みやすさを優先したプロダクト。
そうした要素が積み重なることで、結果的に生まれているのは個性ではなく、均質化だ。
そんな流れに対して、明確に異なるアプローチを提示しているのが「Amaro16.20」である。

なぜアマーロは似てくるのか
アマーロの均質化は、偶然ではなく構造的な問題だ。
Amaro16.20のプロデューサー、ダヴィデ・ペサオラ氏はこう語る。
「まず第一に、味の画一化です。似たようなボタニカルの使用、そして特に砂糖の過剰使用によって、どれも似た味になりつつあります。多くの生産者は売るために作るので、“飲みやすくする=甘くする”方向に行きがちですし、コストを下げるために合成原料を使うこともあります。でも私はその考えには賛成できません。」
背景にあるのは、いくつかの要因だ。
まず、ボタニカルの定型化。
キナやゲンチアナ、ミントといった伝統的な苦味や清涼感の軸は、長い歴史の中で合理的に選ばれてきたものだ。そのため多くのプロダクトが同じ方向性を踏襲している。
しかし、その正解のレシピが広く共有されたことで、味の輪郭までもが似通ってしまうケースが増えている。
次に、糖度設計の問題がある。
市場において「飲みやすさ」は依然として強い価値を持つ。その結果、苦味を丸め、親しみやすさを出すために糖を強める方向に寄りやすい。気づけば、どのアマーロも甘くてほろ苦い似たようなバランスに収まっていく。
さらに見逃せないのが、コストと生産効率の最適化だ。
天然原料の代わりに合成香料を使う、抽出工程を簡略化するなど、価格競争力を高めるための工夫は珍しくない。しかしそれは同時に、味の個性を削ぎ落とす方向にも働いてしまう。
つまり現在のアマーロ市場は、「売れる設計」を突き詰めた結果として、似ていくことが避けられない構造にあるのだ。
問題はその先にある。
選択肢は増えているのに、記憶に残る一本はむしろ減っているとしたら、それは本当に豊かだと言えるのだろうか。

均質化するアマーロ市場へのカウンター
ダヴィデは、長年バーテンダーとしてカウンターに立ち続けてきた。
無数のリキュールやスピリッツを扱う中で見えてきたのは、売れるプロダクトの共通点と同時に、味が似ていく構造そのものだった。
そうした流れに対して、Amaro16.20は明確に異なる立ち位置から設計されている。
その出発点にあるのは、「他と似ていないこと」を前提にするという考え方だ。
「20年間バーカウンターに立つ中で、数えきれないほどのプロダクトを試し、あらゆる使い方をしてきました。もともとハーブティーや煎じ薬など、いわゆるハーバルな世界が好きだったこともあり、それが自分のアマーロを作る大きな原動力になりました。本当に革新的なプロダクトを作りたいというアイデアは、バーのカウンターに立ち続けてきた経験と、子どもの頃から持ち続けている蒸留酒やお茶への情熱から生まれました。」
このアマーロの特徴は、「何を加えたか」よりも「何を取り除いたか」にある。
キナ、ゲンチアナ、ミントといった従来の主要ボタニカルをあえて排除し、その代わりにローマンカモミールやジンジャー、タイム、クローブ、そしてティーブレンドを組み合わせることで、新たな構造を組み立てている。
伝統的なアマーロにおいて、キナやゲンチアナは苦味の骨格を担い、ミントは清涼感と余韻を整える役割を果たしてきた。どれも長い歴史の中で洗練されてきた完成されたパーツだ。しかし、それらに依存する限り、味の方向性はどうしても似通っていく。
Amaro16.20は、その前提を一度疑うところからスタートしている。
主要なボタニカルを外すという選択は、単なる差別化ではなく、味の設計をゼロから組み直すためのアプローチだ。

「既存の商業的な製品とは違う、唯一無二のものを作りたいという思いがありました。そこから、イタリアの伝統的なアマーロのレシピをベースにしつつ、いくつかの主要なボタニカルをあえて取り除くという発想に至りました。その代わりに蒸留酒やティーブレンドを加えることで、しっかりとしたボディと唯一無二の味わいを生み出しています。」
「通常使われるキナの代わりにローマンカモミールを使用し、ミントの代わりにジンジャー、タイム、クローブを使いました。また、ゲンチアナは使わず、代わりに別の苦味成分を持つボタニカルとお茶のタンニンの作用によって、求めていた独自の味わいを作り出しました。レシピ開発で最も苦労した点は、お茶の扱いと、ローマンカモミール、ルバーブ、ジンジャー、キノットなどのボタニカルとの調和です。」
重要な役割を担っているのが「ティーブレンド=お茶」である。
一般的なアマーロの苦味がアルカロイド由来であるのに対し、本作ではお茶由来のタンニンが構造の一部として機能している。
タンニンは苦味だけでなく、収斂性や口中での広がり、余韻の質にも影響を与える。そのため、甘味との関係性も従来とは異なるバランスで成立し、重さではなく密度を感じさせるボディが生まれる。
つまり、Amaro16.20は、ボタニカルの集合ではなく、「苦味・香り・テクスチャー」を再設計したアマーロと言えるのだ。
「16.20」という名前は、印象的でありながら、その由来もまたユニークだ。
ダヴィデが蒸留所で過ごしていたある夜、理由もわからずこの数字が夢に現れたという。
その後レシピを見返す中で、24種類あるボタニカルのうち、16番と20番が味とボディを決定づける重要な要素であることに気づく。
偶然と必然が重なったこの出来事をきっかけに、「16.20」という名前が与えられた。

万人受けよりも記憶に残る個性
イタリアのアマーロは地域性が色濃く表れるものが多いが、Amaro16.20はそうしたアプローチとは少し異なる立ち位置にある。
「他のアマーロ(特に南イタリアのもの)のように、柑橘やリコリス、ゲンチアナなど特定の地元産素材に強く依存することはあえてしていません。ローマから受けた影響は、単一の素材というよりも、味の複雑さや、ここまで発展してきたミクソロジーのレベルの高さだと思っています。」
その結果として見えてくるのは、伝統の否定ではなく、再解釈というスタンスだ。
従来のアマーロの構造を一度分解し、それぞれの要素を別の論理で再配置することで、新しいバランスを生み出している。
「新しい道を切り開きたいと思っています。イタリアの伝統的なアマーロのような歴史あるものでも、やりすぎることなく革新できるということを示したいんです。
アイデンティティ。それがすべてです。どんなものであれ、自分たちの個性を持つこと。
しっかりとしたキャラクターを持ち、自分たちが何をしたいのかを理解していることが大切です。
私たちは、他のどのアマーロとも混同されないものを作りました。明確な個性があり、誰かのコピーになるつもりはありません。」
Amaro16.20の思想を最も端的に表しているのが、万人ウケする必要はないというスタンスだ。
「すべての人に好かれることを目指すのではなく、選んでくれた人にとって忘れられない存在でありたいんです。むしろ「全然好きじゃない」と言われる方が、「うーん、どこか他のアマーロに似てるね」と言われるよりいい。好きか嫌いか、はっきり分かれるものにしたかった。最初からそういうものとして設計しています。」
多くの場合、市場で良いとされる酒は、バランスの良さや飲みやすさを重視している。苦味は丸められ、甘味は前に出され、誰にとっても受け入れやすい方向へと整えられていく。
しかし、その結果として生まれる中庸な味わいは、必ずしも記憶に残るとは限らない。
「どこかで飲んだことのある味」ではなく、「はっきりと思い出せる味」であること。その違いがAmaro16.20の個性を形づくっている。

味覚ではなく体験を
このアマーロは、一口で理解できるタイプではない。むしろ最初は、少し戸惑いに近い印象を受けることもあるだろう。
お茶由来のタンニンがもたらす収斂性、重なり合うボタニカルの複雑な香り、そして独特な甘味の位置づけ。すぐに美味しいと感じる分かりやすさではなく、もう一度確かめたくなるような引っかかりがある。
「一口一口ゆっくり味わうことで、質の高い時間を与えてくれます。何度か飲んで初めて本質が理解できるような深さがあり、会話を楽しみながら、飲むごとに表情が変わっていくような存在です。」
時間の経過や温度の変化によって味わいは変わり、会話や空間とも自然に呼応していく。
こうした体験を前提にすると、選ばれる酒とは単に美味しい酒ではなく、思い出される酒であるとも言えるだろう。
このアプローチは、現在のバーシーンにおいても示唆的だ。
カクテルの技術や表現が進化する一方で、ゲストが一杯と向き合う時間の価値は、必ずしも十分に掘り下げられてきたとは言えない。Amaro16.20は、その隙間に対して一つの提案をしているのではないだろうか。
「ローマのバーシーンは大きく変わりましたし、これからも変わり続けると思います。クラシックへの回帰が進むと思いますし、バーが本来のおもてなしを取り戻してくれることを願っています。
新しいことに挑戦するのを恐れず実験し続けることこそが、この素晴らしい仕事の鍵となります。」

アマーロの進化はどこへ向かうのか
市場が成熟し、選択肢が増えるほどに、プロダクトはどこか似た方向へと寄っていく。
そんな中で、「似ていないこと」を前提に設計するというのは、決して簡単なことではない。
ここで興味深いのは、そのアプローチが決してやりすぎた革新ではないという点にある。奇抜さを狙うのではなく、あくまで味の構造や体験の質に向き合った結果としての変化だからこそ、自然と納得感が生まれるのだ。
「私にとって良いアマーロとは、一度飲んだら記憶に残るものです。適度な甘さがありつつ、そのアマーロの魂がしっかり伝わること。何かを語りかけてくるような存在でなければ、ただの数あるうちの一つになってしまいます。」
アマーロは、すでに完成されたカテゴリーのようにも見えるが、まだ新しい解釈の余地が残されているということを本作は示している。
そしてそれは、一つのプロダクトだけの話ではない。何を変え、何を残すのか。
Amaro 16.20は、その問いに対するひとつの答えを示している。



自宅でのおすすめのAmaro16.20の楽しみ方
食前酒としては、ハイボールグラスに氷を入れ、ライムを軽く絞り、キノットで満たすスタイルがおすすめです。キノットの代わりにセドラ(レモンソーダ)でも良いです。
食後は常温のストレートで。ただし、氷を入れたり冷蔵庫で冷やすと、より軽やかで飲みやすくなります。
Amaro16.20





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