Criollo – Il Bistrot del Gelato

ローマ中心部の有名ジェラテリアを巡り尽くした人でも、「ここはちょっと特別だ」と感じる店があります。ローマ南部、マルコーニ地区の住宅街にあるジェラテリア Criollo – Il Bistrot del Gelato です。
ここは“ジェラート・ビストロ”。甘いデザートとしてのジェラートの枠を軽やかに超え、料理やワインと結びついた新しいジェラート体験を提案する、ローマでも個性的な一軒です。

店に入ると、まず感じるのはどこか温かな雰囲気。メニューには、クラシックなピスタチオやチョコレートに混ざって、思わず二度見してしまうようなフレーバーも並んでいます。
例えばモルタデッラを使ったジェラートや、チーズをベースにしたものなど、まるで料理のような発想から生まれた味。甘さだけでなく塩味や旨味と組み合わせることで、ジェラートの可能性をぐっと広げています。ここではジェラートは単なるデザートではなく、ひとつのガストロノミーなのです。

この店を率いるのが、ジェラート職人 Simona Papagno。
彼女はイタリアでも名門として知られるペルージャのジェラート学校で学び、長年の経験を積んだ後にCriolloをオープンしました。素材へのこだわりと独創的な発想で知られ、世界のトップジェラート職人のランキングにも名を連ねる実力派です。
しかし店での彼女は、数々の賞を受けたジェラート職人というより、ゲストをもてなすホストのような存在。カウンター越しにおすすめのフレーバーを紹介し、「これはワインともよく合いますよ」と気さくに提案してくれる。そのやり取りの中に、この店の温かな魅力がにじみ出ています。
Simonaが丹精込めて作り上げるジェラートは、濃厚でありながらどこか繊細で、ひと口ごとに素材の個性が丁寧に引き出されています。クラシックな味わいから思いがけない組み合わせのフレーバーまで、その独創的な発想には思わず驚かされます。
そして、その美味しさを支えているのは何よりも素材へのこだわり。
Simonaは、それぞれの食材の産地や特徴についてとても丁寧に説明してくれます。どの材料をどこから選び、なぜその組み合わせにしたのか。そんな話を聞いていると、一つひとつのジェラートが小さな料理のように感じられてきます。

Criolloの魅力は、ジェラートだけではありません。店名に「ジェラート・ビストロ」とある通り、この店ではジェラートを中心にさまざまな楽しみ方が用意されています。
甘いものが好きな人はもちろん、ヴィーガンやグルテンフリーなど食事制限のある人でも楽しめるメニューが揃っており、誰もが安心して訪れることができる場所です。健康志向の強いローマの人々が足しげく通う理由も、こうしたところにあるのでしょう。
そしてもうひとつ、この店を語るうえで欠かせないのがコミュニティという側面です。イベントやワークショップが定期的に開かれ、地域の人々が集まるにぎやかな場所にもなっています。
先日、Criolloでは 「IL CIOCCOLATO INCONTRA… I DISTILLATI(チョコレートと蒸留酒の出会い)」 というイベントが開催されました。チョコレート、蒸留酒、ワイン、そしてジェラートのペアリングを楽しむ特別な夜です。

「Gelasio」の Valerio Gaveglia 氏と、ジェラート店「Il Fenicottero」の Andrea Sorgini 氏によるジェラートのクッキングショーでは、「凍らせた素材」とチョコレート、そしてオイルの組み合わせを軸にした新しいアプローチが披露されました。
イベントは、チョコレートの原料であるカカオの話から始まります。カカオの収穫は年に二度あり、農家は果実の熟度を慎重に見極めながら収穫します。
カカオポッドを開いて取り出された豆は、発酵と乾燥を経て初めてチョコレートの原料になります。この発酵工程は極めて重要で、ここで失敗すると最終製品の香りや味に大きな影響が出るのだそうです。

そこから話はチョコレートの製造工程へ。カカオ豆から作られるのは大きく三つ、カカオマス、カカオパウダー、そしてチョコレートです。
プレス機でカカオバターを抽出すればカカオパウダーになり、カカオマスに砂糖やレシチンなどを加えてレシピを組み立てればチョコレートになります。この違いはジェラート作りにも大きく影響します。
カカオパウダーだけでは味が平坦になることがあり、カカオマスを使うことでより豊かな香りと質感が生まれるのです。

最初のテイスティングは、マダガスカル産チョコレートを使ったジェラート。そこに合わせられたのが、古い伝統を持つリキュール ラタフィア でした。
中世にまで遡る歴史を持つこのリキュールは、イタリアでは赤ワインとアマレーナチェリーから作られることが多く、ベリーのような酸味と果実の甘みが特徴です。マダガスカル産チョコレートの赤い果実のような酸味と驚くほど自然に調和し、口の中で香りのレイヤーが広がります。
ジェラートの技術的な側面についても詳しく説明がありました。このジェラートは牛乳を使わない水ベースで作られ、ラタフィア10%、チョコレート21%を配合。さらに特徴的なのは加工温度です。通常の85℃でのパスチャライゼーションではなく60〜65℃で加工することで、カカオの揮発性の香りを守り、カカオバターの脂肪に余計なストレスを与えないようにしているのです。

「砂糖は甘さを出すためだけのものではない」と語られます。砂糖は香りの構造を作る重要な要素でもあり、今回は90%をスクロースで構成。さらにベリーを真空脱水して香りを移した“香り付きスクロース”を使うことで、チョコレートと果実のニュアンスをより繊細に表現しました。
材料には Passarè 社の蒸留酒も使用されました。アルコール度数45度という強い酒をジェラートに使うのは非常に難しく、マルトデキストリンを使ってジェラートのボディを補強し、バランスを整えています。

ゲストにはカカオ豆そのものも配られ、殻を剥いて味わったり、お茶として抽出する方法も紹介されました。砂糖を含まないカカオの味を体験することで、次に食べるジェラートの甘さや香りをより鮮明に感じられるというわけです。

イベントのもうひとつの魅力はワインとのペアリング。ローマソムリエ協会の Pamela Di Marco 氏による赤ワインとスパークリングワインのテイスティングです。
軽やかな甘みを持つスパークリングワインと、やや甘口の赤ワインが用意され、ゲストは好きな組み合わせを試しながらジェラートを楽しみました。


後半には、柑橘を使ったセミフレッドが登場。
チョコレートの風味をより立体的に感じられるよう構成され、柑橘の蒸留酒を使ったジェルが忍ばせてあります。
使われた蒸留酒は「レモン・ジーンズ」。ガルガーノ、アマルフィ、シチリアという三つの産地のレモンをそれぞれ別に浸漬して作られています。
砂糖は加えず、最後に少量のライムを加えることでフレッシュな余韻を残す仕上がり。柑橘の香りがセミフレッドの中で立体的に広がり、ジェラートの世界に新しい可能性を感じさせるデザートでした。

ジェラート、蒸留酒、チョコレート、ワインが自由に交差する空間は、まさにCriolloらしい実験的なガストロノミーの舞台です。
イベントの最後には、こんな言葉が語られました。 「一口目で判断しないでください。人の体温は約36度。冷たいジェラートは最初の一口では味が完全に開かないことがあります。二口目で初めて香りと甘さのバランスが見えてくるのです。」


この店で提供されるジェラートは、スイーツの領域を超えた小さなガストロノミー。
素材、香り、温度、アルコール、そして文化が重なり合う世界です。
ローマでジェラートを食べるなら、ぜひマルコーニ地区まで足を伸ばしてみてください。Criolloのカウンターの前に立てば、ジェラートの新しい物語が待っています。
シモーナ・パパニョ Simona Papagno
Criolloのオーナー兼ジェラート職人。イタリアの名門ジェラート学校で学び、世界最大級のジェラートイベント Sherbeth Festival への選出や、「世界の優れたジェラート職人50人」への選出、Gelato Festival イタリア大会ファイナリストなど、数々の受賞歴を持つ。ジェラート文化を広める活動にも積極的で、イベントやワークショップ、チャリティー企画を通じて地域社会やジェラート業界の発展にも貢献している。彼女が作るジェラートは、食材の個性や組み合わせを丁寧に引き出したひとつのガストロノミー。伝統を大切にしながらも新しい発想を恐れず、ヴィーガンやグルテンフリー、ケトジェニックなど多様な食のスタイルにも応えるジェラートを生み出している。
クリオーロ Criollo
ヴィーガンやグルテンフリーの定番フレーバーに加え、グルメ系やケトジェニックメニューまで揃えるユニークなジェラテリア。ジェラートをガストロノミーとして提案する店としても知られ、ワインやカクテルと合わせて楽しめるのも魅力。
Criollo – Il Bistrot del Gelato



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