業界の常識に反して

カクテルをもっと自由に届けるために
2015年、ローマのバーシーンはすでに活況を呈していました。しかし、エマヌエーレ・ブロッカテッリが見ていたのは、グラスの縁のもっと先でした。
彼が考えていたのは、「誰が作るか」に左右されない、どこでも同じクオリティのカクテルを提供できる仕組み。
ローマやロンドンの高級ホテルやトップクラスのバーで経験を積んだ彼は、業界が抱えるある課題に気づいていました。
「カクテル文化が広がる一方で、高品質なドリンクを安定して提供できる人材は限られている。」
人気店や大型施設ほど、その課題は大きくなります。
そこで彼が目指したのは、場所や作り手を問わず、常に最高品質のカクテルを届けられるシステムです。専門的なバーテンダーがいなくても、まるで目の前で作られたかのような一杯を提供する――それがDrinkITの原点です。


必要性から生まれたイノベーション
Ready-to-Drink(RTD)市場が世界的に注目されるようになったのはパンデミック以降ですが、DrinkITの歩みはその前から始まっていました。
創業当初のラインアップは、オリジナルのビターズやアマーロ、そしてボトルドカクテルです。
今回、彼らの生産拠点を訪れた私たちは、その初期のボトルを試飲する貴重な機会に恵まれました。
特に印象的だったのがネグローニです。
驚くほどのバランスの良さ。複雑で奥行きのある味わい。長い年月を経たボトルは、その魅力が失われるどころか、より進化していたのです。ボトル熟成カクテルが持つ底知れないポテンシャルを目の当たりにした瞬間でした。
その時点で残っていたのはわずか3本だけ。もうほとんど味わうことのできないその一本に、DrinkITの歴史が詰まっているようです。
パンデミックの後、DrinkITは飲料パートナーとして、高級ホテルの客室から著名レストランといった多くの施設を支える存在となりました。
ボトルドカクテルを提供することで、店舗側はサービスに集中できます。そしてゲストは、まるでその場でバーテンダーが作ったかのようなクオリティのカクテルを楽しめるのです。


創造性と柔軟性が生み出すもの
DrinkITについて特に印象的なのは、その柔軟な発想力です。
R&D・生産責任者のダニーロ・チポリーニは、同社の哲学をこう説明します。
「欲しい素材が手に入らなくても、味への妥協はしない。」
必要な原料が入手できなければ、その風味そのものを再現する方法を探すのです。
その代表例がテキーラです。世界的なテキーラ不足が起き、理想とするスピリッツが手に入らない状況に直面したチームは、生産を止めるのではなく、独自の「ブルーアガベスピリッツ」の開発に着手しました。
アガベ特有の風味を分子レベルで分析し、さまざまな原料を組み合わせながら試行錯誤を重ね、理想的なレシピを完成させました。
「物流や供給の問題を、知識と技術で乗り越える。」
この姿勢こそが、DrinkITがRTD業界で独自の存在感を放つ理由の一つです。


ボトルからケグへ
そしてDrinkITは、次のステージへと進みます。ボトルからケグ(樽)への進化です。
このプロジェクトは、エマヌエーレのミクソロジーの知識と、ダニーロのビールシステムや化学に関する専門知識が融合することで実現しました。
炭酸の効いた爽快なドリンクへの需要は世界的に高まっています。
その流れを受けて、タップ式カクテルの開発をスタートしました。
ジントニック、スプリッツ、アメリカーノ、モスコミュール――。
人気カクテルをタップから提供できるようになったことで、ブランドの可能性は大きく広がりました。
彼らはこう語ります。
「この分野には大きな可能性があります。以前は想像もしていなかった場所へ商品を届けられるようになったんです。そして、品質や創造性を犠牲にすることなくより成長できると確信しています。」


さらにその先へ
DrinkITの成長は、生産拠点の移転にも表れています。
創業当初はわずか20平方メートルのスペースで、研究開発から製造、梱包、事務作業までをすべて行っていました。現在の新工場は、その約6倍の広さ。
これは単なる設備拡張ではなく、ブランドの成長を象徴する大きな一歩です。
今後について、PR担当のクラウディオ・ロ・トゥーフォはこう語ります。
「目指すのは、クラフトカクテル・オン・タップ市場でのさらなる拡大です。」
空港ターミナルや鉄道駅、大型フェスティバル、ナイトクラブなど、人が集まるあらゆる場所でDrinkITのカクテルを楽しめるようにする。
彼らは「大量提供」と「高品質なカクテル」が両立できることを証明したいと考えています。
危機の中から生まれたオリジナルスピリッツであれ、空港ラウンジで提供される完璧なスプリッツであれ、追求しているものは一貫しています。
「完璧な一杯を、偶然ではなく技術と仕組みによって実現すること。」
DrinkITの強みは技術力だけではなく、既成概念にとらわれない発想力です。
彼らの挑戦がこれからどこまで広がっていくのか、ますます目が離せません。


DrinkIT




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