Osare Roma

ローマ中心部から少し北東に位置するポルタ・ピア地区(Porta Pia)は、エレガントなアパートメントが並ぶ静かな住宅街でありながら、近年は新しいレストランが次々に誕生している、美食家にとって注目のエリアです。
そんな街の一角に、本格的でありながら大胆な料理で注目を集めているレストランがあります。その名は オザーレ (Osare)。
「Osare」はイタリア語で「挑戦する」「大胆に踏み出す」という意味を持つ言葉です。
その名前の通り、このレストランは最初から「大胆なアイデア」を掲げてスタートしました。立ち上げたのは、若い二人の創業者ダヴィデとオマール。異なる経験を持つ彼らが目指したのは、単なる食事の場ではなく、「新しい発見が生まれるレストラン」でした。

その哲学は料理にもはっきりと表れています。
オザーレの料理のテーマは、海と陸の食材を大胆に組み合わせること。伝統的なイタリア料理では、沿岸では魚料理、内陸では肉料理といった明確な区分がありますが、この店ではその境界線があえて取り払われています。

キッチンを率いるのは、ローマの料理界で注目される若手シェフ、ミケーレ・ジョヴァンニーニ。これまで数々のレストランで経験を積んできた彼の料理は、大胆さと繊細さの共存が特徴です。素材の魅力を尊重しながらも、新しい技術や意外な組み合わせを恐れない。その姿勢は、レストランの名前であるOsare(挑戦)という精神そのものと言えるでしょう。
メニューには、ウサギ × 手長エビ、リードヴォー × 赤エビといった、一見すると意外に思える組み合わせの料理が並びます。しかし実際に味わうと、その組み合わせは驚くほど自然で、むしろ食材同士の相性の良さに気づかされます。肉の深いコクと魚介の繊細な甘みが重なることで、料理はより立体的な味わいへと変わっていくのです。
さらに、発酵ベルガモットのジェルやキャラメルオニオンのデザートなど、香りや旨味を巧みに組み合わせた料理も多く、料理の構成そのものがクリエイティブな発想に満ちています。そのため、このレストランは料理人やバーテンダーなど、常に新しいアイデアを探している人にとっても大きな刺激となるでしょう。
海と陸という二つの世界を自由に行き来するこのアプローチこそ、オザーレの料理の個性です。ここでの食事は単なるディナーではなく、ローマの食文化の新しい可能性を感じる体験と言えるかもしれません。

季節ごとに変わるテイスティングメニュー

ひと口サイズの前菜:白エビ(マッツァンコッレ)とジンジャーマヨネーズを添えたパンブリオッシュ

コースの始まりには、自家製のパンが3種類テーブルに運ばれてきます。
このパンが、まず驚くほど美味しいのです。
外側は軽く香ばしく焼き上げられていて、中は驚くほどもちもちでふわふわ。
パンそのものの味わいがとても豊かで、小麦の甘みがしっかり感じられるのが印象的。
そこに合わせるのが、旨味の効いたアンチョビのバターと、香り豊かなローマ産のオリーブオイルです。
塩気とバターのコク、オリーブオイルのフレッシュな香りがパンの甘みを引き立て、
シンプルな組み合わせなのに、ついもう一口と手が伸びてしまう。
コースの前の一皿ですが、これだけで本気度を感じさせてくれる、印象的なスタートです。

前菜の中で最も興味深いのは、自家製のシーフードの熟成肉を使ったもので、柑橘類とバジルを添えたカンパチ、ハーブをまぶしたニベ、胡椒をまぶしたマグロ、パプリカをまぶしたボラなどです。
魚の旨味が凝縮されていて、しっかりとした食感とともに複雑な香りが広がります。そこに柑橘やハーブが添えられ、味わいに軽やかなアクセントを加えています。これらには、メガテロとピカーニャといった牛肉の部位が添えられています。この海と大地のサルーミ盛り合わせはレストランのコンセプトを最もシンプルに表現している料理と言えるでしょう。
魚を使った熟成サルーミは、この店を訪れたならぜひ味わってほしい料理のひとつです。

手長エビを詰めたウサギ肉のファルシーは、ジャガイモのパルマンティエとチャイブが添えられています。
ウサギはラツィオ州でも古くから親しまれてきた食材で、ローマ近郊の家庭料理でもよく登場します。
その伝統的な内陸の食材に合わせられるのが、海の甘みを持つ手長エビ。
やわらかく繊細なウサギ肉の中に、手長エビの旨味と香りが重なり、肉料理でありながらどこか軽やかな印象を与える味わいに仕上がっています。
ベースを支えるのは、なめらかなジャガイモのパルマンティエ。フランス料理に由来するこのクリーミーなピュレが、ウサギのコクと甲殻類の甘みをやさしくまとめ、全体に調和をもたらします。
一見すると大胆な組み合わせですが、実際に味わうとそのバランスは驚くほど自然で奥行きがあります。

仔牛のリードヴォー(胸腺)に赤エビ、アーティチョーク、ブラックガーリックを合わせた一皿。
一見すると、まったく異なる世界の食材が集まったような組み合わせです。リードヴォーはヨーロッパでは古くから高級食材として扱われてきた内臓肉で、ミルキーでやわらかな食感と、繊細で深いコクが特徴です。
そこに合わせられるのが、濃厚な甘みを持つ赤エビ。
海の甘味と内臓肉のコクが重なり合うことで、料理全体にリッチな味わいが生まれます。
さらに添えられるのが、ローマ料理を象徴する野菜のひとつアーティチョーク。ほろ苦さと香ばしさが料理にアクセントを加え、仕上げに使われたブラックガーリックが凝縮した旨味を与えています。
海の甘味 × 内臓肉のコク × ローマの野菜という三つの要素が重なり合った、非常に大胆な構成の料理です。
それぞれの食材を単体で味わうこともできますし、すべてを一緒に口に運ぶことで、味のバランスが大きく変化します。一皿の中でさまざまな組み合わせを試しながら楽しめる、オザーレらしい発想に満ちた料理です。

オマール海老のプラン(小さなラビオリ)。パルミジャーノ、ビーツ、ディルが添えられた一皿です。
ここまでの大胆な組み合わせの料理とは少し雰囲気が変わり、この皿はどこかクラシックな構造を感じさせます。ラビオリの中には、甘みのあるオマール海老とジャガイモのフィリング。それを包み込むように、なめらかなパルミジャーノのクリームが添えられています。
濃厚なオマール海老の甘みと、パルミジャーノの塩味が重なり、そこにビーツの持つほのかな土の香りと、ディルの爽やかなハーブの香りが加わることで、味わいに奥行きが生まれます。
深い赤色のビーツと淡いクリームのコントラストも美しく、香りと色彩のバランスが印象的な一皿です。
どこか繊細な構成で、コースの中でも優雅で洗練された印象を残します。

続いて登場するのは、牛肉と鶏肉のアニョロッティ。魚のコンソメのリダクションとパセリオイルが添えられた一皿です。
アニョロッティは北イタリアの伝統的な詰め物パスタで、通常は肉のブロードと合わせて提供されることが多い料理。しかしここでは、その定番の組み合わせを少しだけ裏切るアプローチが取られています。
パスタの中には、牛肉と鶏肉の二種類のフィリング。それを包み込むように、ヒラメやスズキから取った魚のブイヨンを凝縮したリストレットが注がれています。
肉の旨味が詰まったパスタに、海の出汁の味わいが重なることで、濃厚でありながらも重くなりすぎない、絶妙なバランスが生まれています。
仕上げに加えられたパセリオイルが爽やかな香りを添え、料理全体を軽やかにまとめています。
ひと口食べると、肉の深い旨味と魚の繊細な出汁が重なり合い、余韻の長い豊かな味わいが広がります。
肉と魚という異なる世界を一皿の中で自然に結びつけた、オザーレらしい大胆な発想が光るパスタ料理です。

メイン料理として登場するのは、手長エビを詰めたホロホロ鳥。
黒キャベツと発酵レモンが添えられた一皿です。
この料理は、オザーレのテーマである海と陸の融合を最も力強く表現した、コースのクライマックスとも言える一皿です。
主役となるホロホロ鳥は、鶏肉でありながらジビエに近いしっかりとした風味を持つ食材。
その中に詰められているのが、甘みのある手長エビです。
濃厚で力強いホロホロ鳥の旨味に、甲殻類の繊細な甘みが重なり、肉料理でありながらどこか海の香りを感じる奥行きのある味わいが生まれます。
添えられるのは、イタリア料理でもよく使われる黒キャベツ。そのほのかな苦味と鉄分を思わせる力強い風味が、料理全体に深みを与えます。
さらに発酵レモンの爽やかな酸味が加わることで、濃厚な味わいに軽やかなアクセントが生まれ、全体のバランスを整えています。
肉のコク、甲殻類の甘み、野菜の力強さ、そして酸味。 それぞれの要素が重なり合い、コースの中でも最も印象的な存在感を放つ一皿です。

コースの最後を飾るのは、玉ねぎ、蜂蜜、ジャンドゥーヤ、パルミジャーノのアイスクリームを組み合わせたデザート。
オザーレのデザートは、単に甘いだけのものではありません。
この一皿では、玉ねぎのやさしい甘み、蜂蜜のコク、ヘーゼルナッツチョコレートであるジャンドゥーヤの濃厚な香り、そしてパルミジャーノの塩味が重なり合い、甘味・塩味・旨味が複雑に交差する味わいが生まれています。
中心となるのは、玉ねぎのセミフレッド。
そこにパルミジャーノのアイスクリームが添えられ、さらにジャンドゥーヤやヘーゼルナッツのクランブル、なめらかな蜂蜜のクリームが加わります。
それぞれの要素が異なる食感と香りを持ちながらも、口の中で自然に溶け合い、豊かな余韻を残します。
特にパルミジャーノのアイスクリームは、イタリアのガストロノミーでもよく見られる技法のひとつ。
甘さだけに頼らず、料理の延長線上にあるような味の構造を持ったデザートです。
コースの締めくくりとして、オザーレらしい創造性を感じさせる印象的な一皿となっています。

料理に合わせたワインのペアリングもまた、印象的なものでした。
この日合わせられたのは、ラツィオのワイナリー I Lori が手がける Bellone の白ワイン「Monsignore」。トロピカルフルーツの華やかな香りと豊かなミネラル感を持つこのワインは、魚料理だけでなく肉料理にも寄り添う懐の深い一本で、オザーレの料理とも驚くほどよく調和します。
「Monsignore Bellone」は、ラツィオ州の土着品種 Bellone を100%使用した白ワイン。ブドウはローマ南部、ラティーナ県の町 Cori で栽培されています。
醸造では、まずステンレスタンクで発酵を行い、そのあと期間オーク樽で熟成。これにより、ワインはフレッシュさを保ちながらも奥行きのある複雑な香りをまといます。
スタイルは白ワインとしては比較的リッチ。トロピカルフルーツのニュアンスに加え、樽由来の土のような香りやウイスキーを思わせるニュアンス、キャラメル、軽いトースト香が重なります。
味わいはしっかりとしたミネラル感を軸に、長い余韻が続くバランスの良い仕上がり。料理との相性も抜群で、今回の魚料理にも肉料理にも見事に寄り添う力強さを持っています。

オザーレのメニューは季節によって内容が変わります。
その時期に最も良い食材を使うため、料理の構成や組み合わせも少しずつ変化していきます。
特に印象的な魚のサラミも、使われる魚の種類は季節や仕入れによって変わることがあり、その時々で異なる味わいを楽しむことができます。
訪れるたびに新しい発見があるのも、オザーレの魅力のひとつと言えるでしょう。
Osare Roma




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