The Macallan

世界的に知られる蒸留所のひとつ、マッカラン。
スコットランド・スペイサイドで始まったその歴史は、ついに200周年を迎えました。
そして今、次の時代へと進むために、ブランドは新たな一歩を踏み出しています。今回行われたのは、ボトルやパッケージのデザイン刷新。エレガントさを保ちながらも、どこか現代的で躍動感のある仕上がりになっています。
ただし、変わったのは見た目だけではありません。 このデザインには、マッカランのウイスキーがどのように生まれるのか。その背景にある土地や製法、そして積み重ねてきた歴史が、しっかりと織り込まれています。

このボトルは蒸留所そのもの
とりわけ印象的なのが、このボトルのシルエットです。なめらかにカーブを描くフォルムは、一見するとシンプルで洗練されたデザインに見えますが、実はしっかりと意味が込められています。
この曲線は、スコットランド・スペイサイドにあるマッカラン蒸留所の特徴的な屋根の形をモチーフにしたもの。波打つようなラインは、その建築をそのまま写し取ったかのようです。
そしてその屋根は、スペイサイドのなだらかな丘陵や、蒸留所のそばを流れるスペイ川の穏やかな流れを思わせます。 つまりこのボトルは、ただのデザインではなく、その土地の空気や風景までも映し出しているのです。
三角形のラベルが示すもの
もうひとつ見逃せないのが、ボトルの肩にさりげなく配された三角形のラベルです。
これは、スペイン・アンダルシア地方にある「シェリー三角地帯」を示しています。ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアを結ぶこの地域は、世界的に知られるシェリー酒の産地です。
マッカランのウイスキーはスコットランドで造られていますが、その香りや色の個性は、この地で生まれた樽によって形づくられています。スペインで育ったオーク材は、シェリー酒でシーズニングされて樽となり、その中で長い年月をかけて熟成されることで、あの深みのある色合いと複雑な味わいが生まれます。
つまりマッカランの味は、スコットランドだけで完結しているわけではありません。スペインという土地と文化があってこそ完成するものなのです。
この三角ラベルは、そんな味のルーツを静かに教えてくれています。

色にも理由が
マッカランのボトルでまず目を引くのが、深みのある赤です。
この印象的な赤は、単なるブランドカラーではありません。熟成によって自然に生まれるウイスキー本来の色を表すと同時に、ブランドの歴史の中で受け継がれてきた象徴的な色でもあります。「マッカラン レッド」として特別に開発されたこの色には、樽から引き出された自然な色への誇りが込められています。
一方で白は、シェリーの産地であるヘレスに広がる石灰質の土壌「アルバリサ」を表現しています。この土壌がブドウを育て、その先にシェリーが生まれ、さらにその樽を通してウイスキーの風味へとつながっていきます。
さらにパッケージに施された波模様は、スペイ川へのオマージュです。蒸留所のそばを流れ、長年ウイスキーづくりを支えてきたこの川の存在もまた、デザインの中にさりげなく織り込まれています。
情報までも体験にする
今回のリニューアルでは、見た目だけでなく情報の伝え方にも工夫が加えられています。
裏ラベルには新たなシンボルが取り入れられ、使用されている樽の種類がひと目でわかるようになりました。アメリカンオークとヨーロピアンオーク、それぞれがもたらす香りや個性の違いを、視覚的に理解できるように設計されています。
さらに、QRコードを読み取ることで、より詳しい情報にアクセスできる仕組みも導入されています。ただ説明を読むのではなく、自分で知り、理解していく。そんなプロセスそのものが体験になるように考えられているのです。

説明しないためのデザイン
「グランジ・タイポグラフィの父」とも称されるデビッド・カーソンが、今回マッカランのデザインを手がけています。
今回のビジュアルには、蒸留所が歩んできた200年の歴史を象徴する要素が織り込まれており、それと同時に、これから先の未来へ進んでいく意思も感じられる仕上がりです。
カーソンは、デザイン業界では「ルールを壊した人」として知られる存在です。文字をあえて崩したり、レイアウトの整然とした構造をあえて崩したり、ときには“読めない”デザインさえ成立させてしまう。それまで主流だった「読みやすさを最優先するデザイン」とは異なる、「感覚で伝える」という新しい価値観を提示してきました。
彼の考え方はとてもシンプルです。
「デザインは、すべてを説明するためのものではない。」
大切なのは、見る人に感じさせること。言葉で理解させるのではなく、視覚や空気感を通して、直感的に伝えることに重きを置いています。
この、説明するのではなく、見せるというアプローチは、マッカランというウイスキーの在り方ともどこか重なります。
これまでもブランドと関わってきたカーソンは、今回のデザインにおいて、マッカランの本質ともいえる要素、樽、土地、時間から着想を得て、それらを視覚的なかたちとしてボトルやラベルに落とし込んでいます。
「ウイスキーと同じように、デザインもすべてはバランスにある。マッカランでは、その長い歴史に敬意を払いながらも、同時にその開拓者精神を反映させることを目指した。ラベルからボトルの形に至るまで、あらゆるディテールが、このウイスキーの一滴一滴に宿る職人技への賛辞となっている。」
ボトルの形、ラベルの配置、色の選び方。そのすべてに意味を持たせながら、見れば自然と理解できるように仕上げていく。今回のデザインは、まさにカーソンらしいアプローチと言えるでしょう。

2つのコレクション、ひとつのシグネチャー
今回リデザインの対象となったのは「タイムレスコレクション」、すなわちダブルカスクとシェリーオークの2つのコレクションです。どちらも、マッカランが長年培ってきた技術と哲学を体現する代表的なシリーズです。
マッカランの味わいの核にあるのは、シェリーとオークの組み合わせ。そこに熟成年数という時間の要素が加わることで、複雑で奥行きのある風味が生まれます。
ダブルカスクコレクション
ダブルカスクシリーズは、ヨーロッパ産とアメリカ産、2種類のオーク樽を組み合わせて熟成されています。これらの樽は、スペイン・ヘレスのボデガでシェリー酒によってシーズニングされたものです。
このコレクションは、マッカランの樽へのこだわりと、その長い歴史を象徴する存在でもあります。二つの大陸の森からアンダルシアのブドウ畑へと続く、200年にわたる旅の結晶とも言えるでしょう。
ラインナップは12年、15年、18年。味わいは柔らかくクリーミーで、熟した果実やトフィーのニュアンスが広がります。アメリカンオーク由来のやさしい甘さに、ヨーロピアンオークがもたらすスパイスやドライフルーツの複雑さが重なり、バランスの取れた仕上がりです。
シェリーオークコレクション
一方のシェリーオークシリーズは、ヨーロッパ産オークのシェリー樽のみで熟成されています。12年と18年の2種類が展開されています。
自然なマホガニー色を持つこれらのウイスキーは、まさにマッカランらしさの中心にある存在です。ドライフルーツや赤い果実のニュアンスに、しっかりとしたウッディなスパイスが重なり、深みと力強さを感じさせます。ブランドの伝統と洗練を、よりストレートに表現したスタイルと言えるでしょう。

グラスに入る前から始まっている
マッカランは、ウイスキーを飲む瞬間だけの体験とは考えていません。
ブランド自身も、「ストーリーテリングこそが核心」と語るように、その価値は液体そのものだけでなく、それを取り巻く体験全体にあります。
今回のデザインは、その考え方を形にしたものです。視覚や触覚、そして想像力を通じて、飲む前からすでに物語が始まっているのです。
ボトルを手に取った瞬間から、静かに動き出し、グラスに注ぐ前から、香りや味わいを思い描いてしまう。スペインの太陽を浴びたオーク、そこから生まれる甘く深い香り、そして長い時間がもたらす奥行き。そうしたすべてが、自然と広がっていきます。
もしまだマッカランを味わったことがないのであれば、ぜひ一度この新しいボトルを手に取ってみてください。
ボトルを眺めるところから、すでにその体験は始まっているのです。
写真提供: Velier
Velier



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