Diego Galuppi: ABC of Whisky

ローマで開催されるイタリア最大級のウイスキーイベント、Roma Whisky Festival。
蒸留所、専門家、そして世界中のウイスキー愛好家が集まり、会場にはさまざまな香りが漂います。
その中でも、毎年多くの人が参加する人気の講座があります。それがウイスキー入門講座 「ABC of Whisky」 です。
この講座を担当するのが、ローマ出身のウイスキー専門家 ディエゴ・ガルッピ。現在はミラノでも活動しながら、テイスティングイベントやセミナーを通してウイスキー文化を広めています。
彼の講座の特徴は、とにかく分かりやすいこと。初心者でも楽しめるように、ウイスキーの歴史から作り方、味わい方までを丁寧に解説してくれます。
この記事では、その「Whisky ABC」講座の内容をもとに、ウイスキーの世界をのぞいていきます。
ウイスキーとは何なのか?
ウイスキーは、世界で最も幅広い香りを持つお酒のひとつだと言われています。
甘い香り、フルーティーな香り、スモーキーな香り、スパイスのような香り。
一杯のグラスの中に、驚くほど多くの香りが広がります。
世界中で多くの人に愛されているお酒ですが、
「そもそもウイスキーとは何か?」
「どこで生まれたのか?」
「どうやって作られているのか?」
こうした基本をきちんと説明できる人は、意外と少ないかもしれません。
しかし、実はウイスキーの基本はとてもシンプルです。
ウイスキーとは、穀物から作られた蒸留酒を樽で熟成させたものです。
作り方は大きく分けて四つの工程があります。穀物を麦芽にし、発酵させ、蒸留し、そしてオーク樽で熟成させる。このプロセスを経て、ウイスキーはゆっくりと味わいを育てていきます。
そして重要なルールがあります。イギリスの法律では、蒸留したお酒を 最低3年間樽で熟成させなければウイスキーとは呼べません。つまり、ウイスキーは時間が作るお酒でもあるのです。
蒸留の歴史は古代エジプトから始まる
ウイスキーの物語をたどると、もっと古い歴史に行き着きます。
それが「蒸留」という技術です。
蒸留の起源は、なんと 古代エジプト にまでさかのぼります。
ただし当時、この技術はお酒のために使われていたわけではありません。
蒸留は主に、香料や化粧品、美容製品、そして洗浄のために利用されていました。
やがてこの知識は、宗教ネットワークを通じてヨーロッパへと広がっていきます。
そしてその技術を記録し、後世に伝えたのが修道院の修道士たちでした。
中世ヨーロッパの修道院は、知識と学問の中心でもありました。まるで小説『薔薇の名前』の世界のように、修道院は文化や技術を守る場所だったのです。

ウイスキー誕生の伝説
では、ウイスキーを最初に作ったのは誰なのでしょうか。
ここからは歴史というより、少しロマンのある話になります。
伝統的に、ウイスキーの誕生は 聖パトリック と結びつけて語られることが多く、そのためアイルランドがウイスキーの発祥地と考えられることがあります。
しかし現在、ウイスキー生産の中心は スコットランド です。
長い歴史の中で政治や経済の変化、さらには戦争などを経ながら、蒸留の文化はスコットランドに深く根付きました。こうしてスコットランドは、世界的なウイスキーの国として知られるようになったのです。
モルトとは何か
スコッチウイスキーの主な原料は モルト化された大麦 です。
大麦は穀物、つまり種です。この種に水を与えると発芽が始まります。
すると穀物の内部では重要な変化が起こります。デンプンが糖へと変わるのです。
この糖は、発酵のときに酵母がアルコールを作るためのエネルギーになります。
しかし発芽が進みすぎると、植物はその糖を自分の成長のために使ってしまいます。そのため途中で発芽を止める必要があります。
そこで使われるのが 熱 です。この工程が、麦芽を作る「モルティング」です。
スモーキーなウイスキーはどう生まれるのか
ウイスキーの香りの中でも、特に印象的なのが スモーキーな香り です。
この香りを生み出すのが ピート(泥炭) です。
ピートは植物が長い年月をかけて堆積してできた燃料で、スコットランドでは非常によく見られます。
昔はモルトを乾燥させるとき、このピートを燃やしていました。
その煙の香りが麦に移ることで、スモーキーなウイスキーが生まれます。
ただし意外なことに、こうした ピーテッドウイスキーは世界の生産量の約7%しかありません。
ウイスキーと聞くとスモーキーな味を想像する人も多いですが、実際にはほとんどのウイスキーはスモーキーではないのです。
スコッチウイスキーの4つのタイプ
スコットランドの法律では、ウイスキーは主に四つのカテゴリーに分類されています。
まず シングルモルトウイスキー。これは一つの蒸留所で作られ、大麦麦芽のみを原料とするウイスキーです。
次に シングルグレーンウイスキー。こちらも一つの蒸留所で作られますが、大麦のほかに小麦やトウモロコシなどの穀物を使うことができます。
そして ブレンデッドウイスキー。複数の蒸留所のウイスキーを組み合わせたもので、世界で販売されているウイスキーの多くがこのタイプです。
最後が ブレンデッドモルトウイスキー。これは複数の蒸留所のシングルモルトだけをブレンドして作られたウイスキーです。

ウイスキーの味を決める「樽」
ウイスキーの個性を大きく左右するのが 樽 です。
よく「ウイスキーの味の80%は樽で決まる」と言われるほど、樽は重要な役割を持っています。
特に多く使われているのが バーボン樽 と シェリー樽 です。
アメリカの法律では、バーボンは必ず新しい樽で熟成させなければなりません。そのため、使われたバーボン樽はスコットランドへ運ばれ、スコッチウイスキーの熟成に再利用されます。
近年ではさらに多様な樽が使われるようになり、ポートワイン、アマローネ、ラムなどの樽で熟成させる試みも増えています。
ウイスキーに関するアメリカの法律はこちらの記事でも紹介しています
→ https://www.martinitime.it/post/michel-reina-whiskey-101
ウイスキーのテイスティング
ウイスキーを味わうとき、最初に行うのは「飲むこと」ではありません。
まずは 見ること から始まります。
グラスを光にかざし、色を確認します。
次にグラスを軽く回し、内側にできる液体の線を観察します。
グラスの内側にできる輪は リム と呼ばれます。
その間隔から、アルコールの強さをある程度感じ取ることができると言われています。輪が近いほど、アルコールが強く感じられる傾向があります。
また、グラスを流れ落ちる細い筋は ティアーズ と呼ばれ、 ウイスキーの粘度やオイリーさを示しています。ゆっくりと長く流れるほど、よりリッチな質感であることを示す場合が多いです。
色もまた、熟成に使われた樽の種類を推測するヒントになります。
次に行うのが香りを嗅ぐ ノージング です。
まずはやさしく香りを確かめます。ときには片方の鼻だけで香りを取ることもあります。
最初はアルコールの香りが強く感じられても、少し時間が経って鼻が慣れてくると、奥からより複雑な香りが少しずつ現れてきます。
実際に飲むときは、小さく一口含み、しばらく舌の上に留めます。舌をスプーンのような形にすると、液体が口の中に広がりやすくなると言われています。
その後、口の中でゆっくり動かしながら味わい、さまざまな香りや風味が広がっていくのを感じます。
ウイスキーのテイスティングは、人それぞれの記憶と結びついています。
同じウイスキーでも、人によって感じる香りや味が違うのはそのためです。

ウイスキーは男性のためのお酒?
ディエゴ・ガルッピが最後に強調したのは、ウイスキーは男性だけの飲み物ではないということでした。
研究によると、女性は男性よりも嗅覚が敏感な場合が多いとされています。
つまり、ウイスキーの繊細な香りをより豊かに感じ取れる可能性もあるのです。
「ウイスキーは男性の酒」というイメージは、長く続いてきた思い込みに過ぎません。
ウイスキーは旅である
講座の最後に、ディエゴはこんな言葉を残しました。
「ウイスキーは、観察し、香りを嗅ぎ、味わうもの。実は、飲み込むこと自体はそれほど重要ではありません。」
ウイスキーとは、香り、味、そして記憶をめぐる体験です。一杯のグラスの中には、新しい香りや感覚を発見する瞬間があります。そしてその中には、もしかすると、あなた自身の小さな物語が隠れているかもしれません。
ディエゴ・ガルッピ:
このコースの講師である、ディエゴ・ガルッピ(Diego Galuppi)は ローマ出身のウイスキー専門家 です。現在はミラノでも活動しており、ウイスキー文化を広めるためのテイスティングやセミナーを数多く開催しています。
彼は現在、イタリア国内で50歳未満のウイスキー専門家の中でも有数の存在として広く知られています。飲食業界でのキャリアは非常に若い頃に始まり、22歳という若さでローマにて自身初となるレストランの経営を任されました。
彼はレストランの基本的なサービスに満足することなく、「良い酒と良い食事(buon bere e buon mangiare)」という哲学のもと知識と経験を深め、より高品質でありながら誰もが楽しめる価格帯の提案を追求してきました。ワインの分野で専門性を高め、独立系ワイナリーを中心にセレクションを行うようになり、イタリアにおけるクラフトビールムーブメントの黎明期には、クラフトビールの世界にも強い情熱を抱くようになりました。彼にとって決定的な出会いとなったのがウイスキーです。現在でも師と仰ぐ ピノ・ペッローネ(Pino Perrone) と出会ったことをきっかけに、蒸留酒の世界で本格的な研鑽を積み始めました。
彼は常に新しい蒸留所を探し続けており、とりわけ独立系生産者への強い関心を持っています。過去10年間にわたり ローマ・ウイスキー・フェスティバル(Roma Whisky Festival) と協力し、ウイスキー入門講座として知られる 「ABCコース」 を担当してきました。これらの講座の目的は、「蒸留酒の王」とも称されるウイスキーへの愛と情熱を伝えること、そして初心者の段階から意識的で理解のある消費者を育てることにあります。
現在はミラノに拠点を移し、ミラノで最も歴史のあるブリティッシュパブ 「Old Fox Pub(1979年創業)」 のリニューアルと品質向上に携わっています。フード&ビバレッジ・マネージャー(Food & Beverage Manager) として現場の運営にも取り組んでいます。
Roma Whisky Festial



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